明日を夢見て生きて行こう
私の会社は大型タンクの建設や修理を営んでいますが、仕事の性質上、日本全国の港々が仕事場で、社員たちは短期で二か月間、長期ならば一年もの出張が続きます。また、タンク建設の仕事は青空天井の下での作業ですので、夏は大変暑く、冬は寒い。更に高所作業も有りのきつい仕事です。また、タンクの中身が油やガスの危険物であるため、高度の溶接技術が求められます。職人になればかなりの高賃金を得られますが、職人になるまで三年ほどの修業期間がかかります。保護観察を受けた人たちがこの期間を辛抱してくれるか、また、私や会社の仲間達が引っ張っていってあげられるかが勝負です。一生懸命やったつもりでも彼らが黙っていなくなったり、塀の中に戻ってしまった時、とても空しさを感じます。
建設業はどこでも同じだと思いますが、若者の職人のなり手が少なく、人手不足で悩んで来ました。私が二一才でタンク建設会社を創業した時、高度成長時代でしたので働いてくれる人を集めるのに大変に苦労しました。
苦肉の策として京浜間の不良少年達を五人ほど集めてタンク建設の現場に乗り込みました。以降、この少年達と寝食を共にして日本全国の港々でタンクを造って廻りました。私は世間では「不良」と言われている少年達が、素晴らしく更生する事を身をもって体験しました。
縁あって新潟県の新発田市に居を構えてからも、相変わらず人手不足は続いていて、酒場等で一寸柄の悪そうな、職の無さそうな人に出会うと「ウチで働かないか?」と声を掛け、何人か入社してもらいました。今でも我が社の幹部として頑張ってくれている人もいます。何年かして新発田市に「協力雇用主会」が出来た事を知り、喜んで入会させていただきました。その頃はわずか四、五名の会員でしたが、今や会員も四五名以上に増え、少年院や刑務所を訪れての研修会や総会等で、楽しい仲間として親睦を深めています。
入会時より、保護観察所や保護司さんから、また、少年院から直接頼まれた少年達は全員引き受けて雇用しましたが、残念ながら全員が更生してくれるというわけにはいきません。それでも現在、少年院や鑑別所を出た七名の人達が我が社の中堅として活躍してくれています。もう彼らに再犯の可能性など微塵もありませんが、中でも「K君」は少年院から来てから、現場作業が終わった後も工場の片隅で黙々と溶接の練習を続け、わずか二年余りで我がタンク業界の最高峰の溶接免許を取得しました。今や、我が社の寮を出て自分のアパートに住み、私より高級な車に乗っています。
私が彼等と三か月に一度程やっているのが「カツ丼会」。施設を出た時食べたカツ丼の味を忘れずに、「もう二度とあんなところに帰らない」と誓い合う会ですが、そのK君に「今の夢は何だ?」と聞くと、「母親の家を建ててやること」と笑顔で言います。少年院を出る時に引取りを拒んだ親の家を建てるのが夢だと言う。私は彼に感激して思わず下を向いて酒を飲んでしまう。こんな素晴らしく更生した男達を見る時、「協力雇用主を続けて来て良かったなー」とつくづく思うのです。
私が少年院等を出た人達を多く雇用している事がテレビ局「TBS」の知る所となり、「武田鉄矢」さんの「三年B組金八先生ファイナル」に登場した「加藤優さん」のモデルとして取り上げられることとなりました。そのため私は、少年院で二度講演を頼まれ、少年たちの前で話をしました。その中で私は、「君達は職人の道を選ぶのが良いと思う。職人さんならコックでも板前でも大工でも何でも良い。この世界は修業時代は辛いが、職人に成れば過去は関係なく何処でも腕一本で稼げるし、一生懸命やれば独立の道も開ける」と話をします。私の会社から元不良少年達が何人も独立し、立派な社長としてやっている姿を見てきたからです。少年等が修業時代に耐え、職人として立派な社会人になって欲しいと思いますが、さて平成の少年達に通じているのか私には分かりません。
彼等を受け入れ、彼等を信じ、彼らの更生を夢見て、協力雇用主を続けて行こうと思っています。
新潟県就労支援事業者機構 元常務理事 安田光一
非行少年の雇用を通じてその更生に尽力。
「3年B組金八先生ファイナル」の登場人物のモデルとなりました。
入所中から就職後までのきめ細かな支援
犯罪や非行のない、安全で安心できる社会を築くためには、犯罪や非行をした人が仕事に就き、健全な社会の一員として更生することが極めて重要です。しかしながら、これらの人たちが職に就き、仕事を続けていくことには様々な困難もあり、容易でないのが実情です。このため法務省では、平成18年度から、厚生労働省と連携して就労支援対策に取り組むとともに、経済産業省など産業分野を所管する省庁やNPO法人など民間の就労支援組織と連携して、刑務所出所者等を地域の幅広い産業分野で雇用していただくための取り組みを進めています。
しかし、こうした取り組みは、一定の成果を上げているものの、犯罪や非行をした人の就労確保は、依然として極めて厳しい状況にあり、加えて就労支援を行なっても、職種や職場環境とのミスマッチや就労を継続できないケースが多数に上がっています。そのようなことを背景に、新潟県更生保護就労支援事業所では、更生保護就労支援モデル事業の一環として、犯罪や非行をした人の入所中から就労後までのきめ細かな就労支援と雇用基盤の整備を行っています。
新潟保護観察所
刑務所、少年院など矯正施設入所中の人、保護観察を受けている人、矯正施設から満期釈放された人や起訴猶予となった人から「支援対象」を認定。
新潟県更生保護就労支援事業所
NPO法人 新潟県就労支援事業者機構が国から委託。
業務の目的
矯正施設から就労後の職場定着まで、継続的かつきめ細かな支援と、協力雇用主の拡大等の雇用基盤の整備。
矯正施設入所中から就職後までの隙間のない就労支援
1.就職活動支援業務
入所中
施設面接等で希望、就職適正を把握し、「就労支援計画」を策定。
釈放後
企業ネットワーク活用した雇用主情報の収集、提供。
2.職場定着支援業務
就職後
職場の勤務状況や生活状況をフォローアップ
協力雇用主への助言・支援。
3.定住支援業務
(就職活動支援または職場定着支援と併せて実施)
住まい探し等に関する情報提供ほか定住先確保などの
ための支援。